Vol11​頑なな伯母が「リハビリ」を決意した日。自分を守るための説得劇

トーンダウンから契約完結までの道のり

​  原鶴温泉への旅行から1週間後。私は熊本の伯母の家を訪ねていました。夕食を終えた落ち着いたタイミングで、単刀直入にリハビリの話を切り出しました。

​ 旅行中のあのノリの良さはどこへやら、伯母のトーンは少し落ちているように感じられます。ざっくばらんに本音を聞いてみると、伯母の胸の内には2つの不安や拒絶があることが分かりました。

  1. ​「自分はまだまだ(リハビリが必要なほど衰えていない)」というプライド
  2. ​「わざわざお金を出してまでリハビリをしなくてもいい」という費用面への抵抗

 そこで、この2つの引っかかりを1つずつ解きほぐしていくことにしました。当時のやり取りは、だいたいこのような流れだったと思います。

「伯母さん、この間転んだときの傷、綺麗に治って良かったね」

「うん」

「転んだときは、痛かったでしょう」

「痛かったねぇ」

「また転んだらどうする?」

「大丈夫、もう転ばんけん」

「この間は、注意しとったとに転んだでしょ。注意していても転ぶときは転ぶとよ」

「……そぎゃんたいな(そうだね)」

「でも、転びにくくなったほうが良くない?」

「それは、そうたい」

「リハビリすると足の筋肉が鍛えられるけん、転びにくくなるとよ。週に1回だけでいいけん、行ってみらんね?」

「……」

「お金もね、1回2,000円ちょっとくらいやけん、安かよ」

 さらに、熊本の自宅が大好きで「ここから離れたくない」という伯母の強い気持ちも、説得の材料にさせてもらいました。

 「伯母さん、もし今度転んで打ち所が悪かったら、骨を折って入院することになるかもしれん。そうなったら退院しても自分でご飯は作れんくなるけん、福岡の俺の家に来てもらわんといかんくなるよ。自分の家が一番よかでしょう?そうなったら嫌でしょ。だからリハビリしよう。最初のうちは、俺も一緒に付いて行くけん」

「……そうね。分かった」

​「最初の数回は私も同行する」という条件を出すことで、伯母はようやく納得してくれたのでした。

ケアマネジャーさんへの連絡と、対照的な2つの施設見学

 福岡に帰ると、私はすぐにケアマネジャーさんへ連絡を入れました。ありがたいことに、すぐにリハビリのケアプランを作成し、伯母の家から近い事業所を2箇所紹介してもらえることになりました。

​「よし、動き出そう!」

​ 次回の熊本訪問日に合わせて、見学のアポイントを入れてもらいました。

​そして迎えた見学当日。

1軒目の施設は、リハビリというよりも「デイサービス」の色合いが強い印象でした。皆さんでお茶を飲んだりレクリエーションをしたりと、楽しそうな雰囲気はあるものの、今回の目的とは「ちょっと違うかな」と感じました。

 対する2軒目の施設は、まさに「トレーニングジム」そのもの。私もすべてのトレーニングマシンを試させてもらいましたが、本人の筋力に合わせて細かくレベル調整ができる素晴らしい仕様でした。

 ​伯母もこの2軒目の雰囲気が気に入った様子。見学後、すぐにケアマネジャーさんの携帯へ連絡し、翌週に契約の手続きを進めてもらうよう段取りをお願いしました。

 

土曜日を選んだ理由と、頼もしい担当者さんとの出会い

次に決めるべきは、週1回のリハビリを「何曜日にするか」です。

 私は平日ではなく「土曜日」を希望しました。コースは、半日(2時間程度)です。土曜日であれば私も送迎に立ち会えますし、半日であればリハビリ後の伯母の感想や顔色を昼食を共に食べながら、直接確認できるメリットがあります。おまけに、高速道路の休日割引が効くため、交通費も安く抑えられます。

 ケアマネジャーさんへ追加のショートメールを送り、翌週を待つことにしました。

いよいよ契約の日。

「ここ最近、毎週末のように熊本へ来ているなぁ……」と思いつつも、「よし、もうひと頑張りだ!」と自分に気合を入れます。

 今回お世話になる『リハプライド帯山』の担当者さんは、背が高くて優しく、とてもスマートな男性でした。介護福祉士だけでなく、理学療法士(PT)の資格も持たれている方で、専門性の高さからも大きな信頼を寄せることができました。

 伯母もすっかりその方を気に入ったようで、いよいよ来週の土曜日からリハビリがスタートすることに決定!

ついに始まったリハビリ初日!一生懸命な伯母の姿と、まさかの「甥離れ」

 いよいよ、今日から伯母のリハビリがスタートする日。

 私はいつもよりぐっと朝早くに起き、福岡から熊本へと車を走らせました。

​ 午前10時頃に伯母の家へ到着。ここからは妻との見事な連携プレーです。私が洗濯物を物干しへ干している間、妻は昼食と夕食の材料を買い出しへ。そうこうしているうちに時計の針は11時を回り、お迎えの車がやってきました。

​ 「リハプライド帯山」のスタッフさんにご挨拶をし、私も同行させてもらう形でいざ出発です!

丁寧なサポートと、笑顔で見せる驚きの順応性

事業所に到着すると、まずは他の職員さんや利用者さんへのご挨拶から始まりました。簡単な打ち合わせと血圧測定を済ませ、いよいよ実際のトレーニングが開始されます。

スタッフさんからは、

「最初から強い負荷はかけませんからね。まずはマシンの動きに慣れていただいて、本人の状態を見ながら少しずつ調整していきますのでご安心ください」

と、とても丁寧な説明があり、私もホッと胸をなでおろしました。

 最初に伯母が案内されたのは、油圧式のマシンを使った膝の曲げ伸ばし運動でした。

 先週までの渋っていた様子が嘘のように、伯母はスタッフさんに言われた通り、一生懸命にマシンを動かしています。

 続いて、胸や背中の筋肉を刺激する装置へ。

 これまた実にあっさりと、素直に取り組む伯母。一つのメニューが終わるたびに、どこか誇らしげにニコニコと笑っていました。

 途中で適切な休憩を挟みながら、あっという間に約2時間が経過。

 最後にお茶を飲みながら、担当の方から「今日の感想はどうですか?」と聞かれると、伯母は少し恥ずかしそうにハハハと笑っていました。

​(うん、これは絶対に気に入ってる。間違いない!)

 伯母の表情を見て、私は「この事業所を選んで本当に大正解だった」と心から確信しました。

順調な滑り出し、そしてまさかの結末へ……

 帰り際、私は少し緊張をほぐそうと、半分冗談交じりに伯母へ声をかけてみました。

 「伯母さん、来週からは俺なしで、1人で行きなっせ(行きなさいよ)。もう大丈夫だろ?」

​すると、返ってきたのは、

「よかよ(いいよ)」

という、意外すぎるほどあっさりとした返事。

 まさかのスピード甥(おい)離れです。少し寂しい気もしましたが、これなら一安心。

 「このまま順調に楽しく続けて、筋力を維持して、もう二度と転ばないようになってくれればいいな」

 私はそんな風に、明るい未来を確信していました。

……ところが。

​人生、そう一筋縄ではいかないものです。

 次回の記事では、まさかの**「2回目の転倒」**についてお話しします。

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